大学4年/修士2年の春~夏。
就職活動の結果が出始めるころに毎年決まって行われるのが「内定マウンティング」です。
自分の内定先の企業ブランドによって、人の優劣を無意識に判断してしまうこの行為。
そこには何の本質的な意味がないにもかかわらず、就活生は毎年企業ブランドを追いかけ、内定を獲得した暁には「俺はこんなに有名な企業に内定したんだぜ」とドヤ顔を繰り返します。
サークルやゼミなどで目立たなかった人であっても「〇〇先輩はあんな有名企業に内定したらしい!」と、手のひら返しで羨望の的となることもしばしば。
そういった先輩の気持ちよさそうなドヤ顔を見て「自分も有名企業から内定をもらって後輩や同期から尊敬されたい!」と、また次の代の学生も同じように内定ラベルを求めて就職活動に繰り出していく…。
こういった本質的ではないサイクルは、いつの時代も学生の間で回り続けています。
バブル期であれば興銀・長銀などの銀行員がチヤホヤされていたため、優秀層はこぞって銀行を受けまくっていました。
東大生であれば真っ先に進路として考えていたのは官僚でしょう。
銀行や官庁の内定者は一躍羨望の的となり、合コンやイベントに引っ張りだこ…。
30年が経過した現代でも、企業名は違えどこの現象は変わらず発生しています。
興銀や長銀はなくなり官庁人気は衰えましたが、代わりに外資系コンサル・外資系投資銀行・総合商社などの就職人気が高まり、自ずからそれらの企業の内定者は”スーパーマン“扱いをされるようになっています。
では、どうして有名企業の内定者は内定マウンティングをしがちなのでしょうか?
事実として、外資系企業や総合商社の倍率は100倍をゆうに超えます。
また、多くの外資系企業は選考フローの中に「インターン/ジョブ」というワークを組み込んでいます。
インターンは主に思考力を駆使して提案資料を作るプログラムになっていることも多く「インターンを突破すること=他人よりも頭が良くて優秀なこと」という方程式があるかのように錯覚するわけです。
特に外資系コンサルティングファームの場合は、このインターンでの出来・不出来で合否が決まるといってもおかしくありません。
外資系投資銀行の場合はこの後に役員と連続で面接する「スーパーデー」と呼ばれる選考があるわけですが、基本的には前述したインターンまでの選考プロセスによって大半の学生がふるい落とされます。
時には他の学生を出し抜き、社員にアピールせざるを得なかったこともあるでしょう。
周りの優秀さに圧倒されて、くじけそうになったこともあるでしょう。
しかしそれらを乗り越え見事内定を獲得してしまうと、人は誰しもこう思うはずです。
「ああ、俺は競争を勝ち抜いたんだ」と。
この優越感こそ、選民意識を加速させ内定マウンティングへと繋がる原動力となっています。
就職活動は学生時代の中で最も大きなイベントと言っていいでしょう。
これまでのサークル・ゼミ・アルバイト活動などでであまり目立たなかった人でも、ある意味”巻き返し”が利くイベントなんですね。
低学年のうちは”空気”のように扱われていた人であっても、有名企業に内定すると学生界隈では途端にチヤホヤされます。
それによってこれまでフラストレーションを溜めていた人が調子に乗って「内定ドヤ顔」を始めるんですね。
周りから良く思われたい・尊敬されたい・認められてたいという承認欲求を、内定ブランドを担保に得ようとするわけです。
大学低学年の頃はあまり目立たなかったような人でも、内定を獲った瞬間にはっちゃけ出す人は十中八九この種類の学生だと言っていいでしょう。
他のパターンとしては、これまでの人生がピカピカエリートであったために、その地位を保つために難関企業に行きたがる場合です。
例えば開成・筑波大駒場・桜蔭のような超有名進学校から東大早慶に進学し、留学なども1年間経験しているような人たち。
または親が外資系サラリーマンやエグゼクティブ層であり、幼少期からエリート意識が高めの人たち。
こういった人たちは、自他ともに認める”エリート”像に強く惹かれる傾向にあります。
超有名中高一貫校⇒東大早慶⇒超難関企業⇒MBA⇒投資ファンド・経営層・起業家 などのルートが彼らの認める”エリート”ですね。
この規定ルートから外れることは、すなわちエリートからの凋落を意味します。
エリート学生からすると「凋落」というのはプライドが許さないわけです。
したがって必死に難関企業からの内定を必死に獲得しに行きますし、内定獲得の暁には無意識のうちに「俺/私はエリートなんだぜ」という空気感を漂わせます。
受け取り手によっては、こういったエリート感が鼻につくなぁ・ウザいなぁと思う人もいると思います。
これがまた別の「内定マウンティング」が起こる背景です。
さて、大学4年生の1年間で思う存分内定自慢をしてきた学生は入社後にどうなるのでしょうか?
意外なことに、99%の学生は入社後に企業ブランドを意識することがほとんどなくなります。
というのも、一緒に働いている人たちは同じ企業ブランドを背負って働いているので、社名で優越感を得られるわけではなくなるからです。
特に新卒1年目は右も左も分からず、上司から叱責されながら必死に業務を覚えていくわけなので、色目を使っている余裕はありません。
企業ブランドの優越感に浸る瞬間があるとすれば、華金の合コンくらいなものでしょうか(笑)
内定者時代に就活同期で飲み会をしていた頃は「トップティア」「内定王」などという言葉が頻出しますが、入社後に飲み会を開くとそれらのワードの出現率はグッと下がります。
それよりも「どんな仕事をしているか」「何億円を動かしたか」などと業務内容を意気揚々と話すほうに力点が置かれるようになるわけです。
そして誰もが内定者時代の輝かしい頃の自分を思い出して言うんです。
「ああ、内定自慢は無意味だったな」と。
こうは言ったものの、マウンティングというのは形を変えて残り続けます。
マウンティングという言葉の語源はサルの群れから来ていることからも、本能的なことであるのは明白です。
動物社会における順序確認の行為で、一方は優位を誇示し他方は無抵抗を示して、攻撃を抑止したり社会的関係を調停したりする。馬乗り行為。(大辞林 第三版 から一部抜粋)
動物である以上、他社に対する自分の優位性を測る作業であるマウンティングは人間社会にもつきものです。
現に「マウンティング女子」という言葉が少し前にトレンドになりましたが、姿や形を変えマウンティングは残り続けていきます。
年収、社内評価、仕事の大小、転職先、結婚、子供 などなど…。
そう考えると、これらの要素の1つが内定ラベルだったに過ぎません。
中高生ならばマウンティングの指標は学力偏差値でしたでしょうし、よくよく考えてみると我々は生まれたときからマウンティングの嵐に晒されてきたわけです(笑)
人生とは何とも不毛なマウンティングとの戦いになるわけですが、いつマウンティングの世界から解脱するか/他者を気にしない自分を追い求めるようになるかは個人差があるので、解脱時期に関する明確な言及は避けます。
ただし余り過剰に内定ラベルにこだわったとしても、その先にも不毛な戦いが待っていることは忘れないでください。
ここまでは内定マウンティングのネガキャンをしてきたわけですが、逆にポジティブな面があるのも確かです。
それは何より周りから「Aさんは社会的に信用のある企業に内定したのだから、きっと基礎能力はあるのだろう」と思ってもらえることでしょう。
現に戦略コンサル・投資銀行内定者に限定された長期インターン募集が密かに回ってくることもあるなど、有名企業に内定していることで次の成長機会に巡り会えるのも事実です。
近年では外資系企業や総合商社出身の人がベンチャーやスタートアップに転職している場合も多く、そういった人たちとのネットワーキングもしやすくなるでしょう。
何より同じ就活の経験者という繋がりがありますし、会話が通じるわけです。
内定ラベルを生かして成長機会や繋がりを模索することは、セカンドキャリアを考えるうえで大きなメリットになると思います。
ファーストキャリアで入社する会社や業界が必ずしも自分にフィットするとは限りません。
入社2~3年後に戦うフィールドを変えたいと思う瞬間が誰しも来るはずです。
そういった時に学生時代に繋がっていた人にポロっと相談をしてみると「じゃあウチにおいでよ」という話に広がる可能性だってあるわけです。
こうした”コネ”を作るにあたって、内定ラベルのある大学4年生/修士2年生の1年間はゴールデンタイムと言えるでしょう。
まだギリギリ利害関係下に置かれていない「学生」という立場だからこそ、先輩方は可愛がってくれるでしょうし色々な機会を提供してくれます。
しかし入社後に作られる”コネ”というのは全て利害関係下に置かれるわけなので、ビジネス上の旨み抜きに腹を割って話せることは少なくなります。
入社後に後悔しないためにも、内定ラベルを生かしながら次の機会を模索してみてください。
内定マウンティングや内定自慢が起こるメカニズムと、内定ラベルの上手い使い方についてここまで説明してきました。
無い内定の人はまず内定を、内定者の人は次のキャリアに向けた模索に時間を使っていきましょう!